2008.01.13 Sun
Trent Reznor:何が『正しい』やり方なのか?
>先日、自らがプロデュースしたSaul Williamsのアルバムを、「無料オンライン配信+気に入った人は5ドルの寄付」にて提供したTrent Reznor。彼は多くのダウンローダがアルバムに5ドル以上の価値を見出し、アーティストをサポートするため、寄付してくれるものと考えていたようだけれども、実際には彼が考えていたほどではなかったようだよ、というお話。Radioheadは依然として彼らのダウンロード提供に関する数字を明らかにしていないけれども、Reznorはこうした数字を明らかにすることが、これからの音楽のあり方を考える上で必要なことだろうと考えているようだ。
原典:nin.com
原題:saul follow-up and facts
著者:Trent Reznor
日付:January 03, 2008
URL:http://www.nin.com/
レコードビジネスの中でアーティストでいることは、何だか変な時代になっている。何をしちゃいけないのかは本当に簡単に理解できる。ただ、何が正しいかは全くわからない。俺は肥大化した官僚的なメジャーレーベルから自由になった、そしてしたいことは何だって出来るようになった。・・・で、どうすればいいんだ?どうやってレコードをリリースするのが、どうやって音楽やオーディエンスをリスペクトをもって扱うのが、どうやって生計を立てていくのが、「正しい」方法なんだ?俺には、俺と同じような状況だったり、もうじきそうなるだろうたくさんの音楽仲間がいる。そして、それが不安や先の見えない源なんだ。
Saul Williamsの"The Inevitable Rise and Liberation of NiggyTardust"をリリースした俺の経験と、そのプロセスで学んだことを共有したい。たぶん、俺達の全てのデータを露わにすることで、よりよいソリューションに貢献できると思う。
これまでの経緯:Saulは俺がプロデュースする素晴らしいレコードを作る。俺達はメジャーレーベルに適したところを見つけられいない。だから俺達自身でデジタルでリリースすることにする。ただSaulは無制限に金を使えるわけじゃない、俺達は自らのニーズを満たしてくれる企業を探してまわる。俺達はMusicaneを選ぶ。彼らは有能で、俺達の希望を受け入れてくれる。その結果がこれだ:niggytardust.com。
俺達は192Kbpsでレコード全部を無料で提供する(もしビジターが完全に無料ですませれば−俺達が帯域コストを支払う)、もしくはもっと高品質なバージョンを選択したり、アーティストを直接サポートしたいと思うのであれば、5ドル支払える。支払いのオプションは、主要なクレジットカード、PayPalを提供する。
俺はこう考えていた。ファンはできる限りすぐに利用できる音楽に興味をもつ(これは良いことだ、覚えてくれ)、通常それはレーベルの製造工場からのリーク。なら、最初の市場への露出としてレコードをデジタルで提供すれば、その問題は取り除かれる。もし、適当な品質でレコード全体を無料で(紐をつけずに)提供すれば、もし面倒くさくないやり方で、疑う余地の無い低価格で提供してくれたアーティストを直接サポートしたいと思うなら、人々は「正しい行いをする」。そう、そうなんだよ・・・。
あぁ、今俺はよくわかった。キミらもわかってくれるだろう。
Saulの2004年にリリースされた前作のレコードは33,897枚売れた。
08/01/02時点
154,449人がSaulの新作レコードをダウンロードすることを選んだ
そのうち28,322人がアルバムに5ドル払うことを選んだ。つまり、18.3%が支払うことを選んだ
支払った人々のうち
3,220人が192kbpsのMP3が選択
19,764人が320kbpsのMP3が選択
5338人がFACを選択
このレコードのマーケティングには1セントたりとも使っていないことを留意して欲しい。唯一のマーケティングは、Saulと俺が聞いてくれそうな人みんなにできるだけでかい声でトークしたことだ。それ以外のところでは、ほとんどメディアに取り上げてられることもなかったから、俺のこのプロジェクトを知っているのは、大体がSaulかNINのファンだったんだと思う。その仮定が正しいなら、Saulのレコードをダウンロードすることを選んだ大半の人々が、Saulか俺のファンなんだろう。そのうちアルバムが5ドルの価値があるって感じてくれた人が5分の1以下だなんてどうだ?思い通りにうまくいくなんて確信してたわけじゃないけど、、ただそのパーセンテージ−しかも大半がファン−には残念に思うところもある。
それに加えて、俺たちは(訂正:俺は)アルバムの制作、レコーディングのために、一流のチーム、Musicaneへの料金、過去の出版契約、サンプル手数料、レコードの配信料金(帯域コスト)にたくさんの金を使った。で、誰もこのプロジェクトでリッチにはなれなかったんだ。
でも・・・
Saulの音楽は以前よりもっと多くの人のiPodにはいり、彼に興味を持っている。彼は年間を通じてツアーにでるだろうし、俺たちはこれからもどんな風にでもできる限り声を上げていくつもりだ。
君らがこういった方法を行おうと考えるアーティストなら、君らがやろうとしていることはこういう数字が待っているということだと理解してほしい。願わくばこの情報が啓蒙的なものとならんことを。
Best.
TR.
まぁ、ここまで悲観的になるのはTrent Reznorがファンに過剰な期待をしすぎてたってことと、Saulに悪いことしちゃったなというところがあるみたい。
前者に関しては、海賊行為はレーベルが課した不便さからきている、というのが彼の持論だったわけで、適切な機会(利便性、ダウンロード、支払い)を与えれば、みんなお金を払ってくれるよ、という主張が根底から覆されてしまったんだよね。
で、後者に関しては、Trent Reznorが焚きつけたこともあって、その結果が以前のレコードよりも少ないセールス(ドネーション)であることを申し訳なく思ってしまっているんだろう。
この記事を書いた後に行われたCNET.comのインタビューでも、その辺のことが吐露されていて、自分が首謀者だった、全て自分が悪いんだ、もしやり直せるならCDを作ってただろうね、といったことを口にしている。ただやり方としては、どうやったってCDでリリースすればリークされるのだから、CD・オンラインリリースを同時にするほうがいい、とも言っている。
SaulとReznorの今回のリリースは、実験というよりは、主義主張のための行為だったのかなと思う。だからこそ、賛同してくれる人が少ないことにガッカリしたんだと思う。CNET.conの記事では、正しいと思うことをした、後悔はしていないと発言しているところが彼らしいとも思うけど。
俺にとっては受け入れがたい部分もあるけど、それはここ2,3年の間に起こっていたミュージシャンとして直面しなきゃいけなかった大きな時代のうねりに踏み込んだってことなんだ。でも、今の俺でもあるべき姿からはまだまだ遥かに遠いんだろう。俺は、音楽はフリーであるべきだと思われていると感じるんだ。基本的にはそうなんだ。歯磨き粉はチューブからあふれちまったんだ(訳注:覆水盆に返らず)、全世代の人々はそうしたやり方の音楽に慣れている。音楽をMySpaceとかラジオで聴くとしたら、音楽に金を払っていないって思うだろう。ミュージシャン達も、そして確かにレーベルも、困難な転換を迎えていることは理解している。じゃあ、それが本当なら、どうやってそれに適応していけばいいんだろう?
何をすればよいかはわからないけれど、新たな道を模索していかなければならない、というところには変わりはないんだろう。これに対して、あなたはどう適応していくんですか?という質問に、例の音楽税の話が出てくる。
俺は戦える限り戦うことを選ぶよ。もし何らかの音楽税があったなら、消費者に対して、「音楽は全て利用可能、ダウンロード可能、あなたが望むなら車にも、iPodにも、ケツの穴にもぶち込むことができます。ケーブル料金、ISP料金に5ドル上乗せで」なんて言えるんだろうな。
これ、未だに意図がわからないんだよなぁ。皮肉で言っているのか願望で言っているのか。
まぁ、答えはわからないにしても、今回のTrent Reznorの詳細な数字の公表はやっぱり意義深いものかなと思う(本人は共感を求めているような感もあるが)。もちろん、数値には制約があってTrent Reznorが言っているように、その大半がSaulかNINのファンだってところもあるから、単純に20%という数字が多いのか少ないのかは判断しにくいところもある。また、プロモーションをほとんどやっていない(金はかけていないにしても、ニュース記事やブログにはなったからね、Radioheadほどじゃなかったけど)ため、実際にプロモーションを行ったとき、つまりファンではないリスナーも多く含まれることでダウンロード数が増えたとき、そのパーセンテージはどうなるのか、ということもわからない。
また、今回のやり方は「完全に」ダウンロードフリーなものであったのだけれども、これを「不完全な」ダウンロードフリーだったRadioheadと比較することは興味深いことだ(Radioheadが数字の公表に興味をもっていないことは残念だけれども)。Radioheadは(手数料はかかるものの)ダウンロード前に購入金額を0にすれば、無料でダウンロードできる。とはいえ、数字を「0」にするという負担やクレジットカード番号の入力など、手間はかかる。一方で、Saulの楽曲はメールアドレスを入力して、送られてきたURLからダウンロードする、という手間が生じる。もちろん、後者のほうが(心的なものも含めて)負担は少ないだろう。
こうした負担の少なさ、というのは、確かにダウンロード数を求めるのであれば、有効かもしれない。ただ、人々に支払ってもらう、と言うことを考えると、Radioheadのやり方のほうが良いのかもしれない。少なくとも、金額を入力する機会が提供される。もちろん、これをフェアだと思わない人もいるだろうけど、その機会があるおかげで実際にサポートするという人もいるだろう。もちろん、これは人の善意に付け込めというものではないし、もしこのような戦略が普及したとしても、善意以上によりシビアな評価によって金額を入力することになるだろう。いつまでも善意をくすぐるということが通用するわけでもない。
と、ここまではこうした音楽配信によってあげられるダイレクトな利益の話だけれども、間接的なメリットで言えば、おそらくは成功だったのではないかなと。金額を支払ったかどうかは別にしても、15万人がSaulのアルバムをダウンロードしたわけで、彼自身のプロモーション、彼の音楽のプロモーションには少なからず貢献したのではないかなと。ただ、これが彼のバックカタログ、彼のライブ活動に目に見えて、つまりコスト分を賄うほどにポジティブな影響を与えるのか、ということは以前定かではない。
何が正しいのか、は依然として先の見えない問題として残り続けている。
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何故かあまり知られてないのですが、レディオヘッドも「0」とメアドだけでダウンロード出来たんですよ。
CDの方はひとまず英米で1位になり、今後の売上から見えてくるものもありそうです。
| MX | 2008/01/14 02:30 | URL | ≫ EDIT