2007.04.24 Tue
ネットラジオ著作権料の値上げ問題を考える:『Win, Win』ができない音楽業界
この問題については、ITmedia(著者はSeth Sutel, Associated Press)の「ネットラジオの著作権料、値上げ見直しを却下」という記事を元に考えてみよう。
この記事を見て、真っ先に気になったのは、以下の部分。
オンライン著作権料をウェブ放送局から集め、レコード会社とレーベルに支払う非営利団体のSoundExchangeは声明で、この決定を歓迎し、業界の成功を確実にするために、ネットラジオ局と協力することを楽しみにしていると述べた。
ちなみに、このSoundExchangeという団体は、2002年の騒動のときにも厄介者扱いされたが、この団体はネットラジオやサテライトラジオなど非双方向のデジタル放送から著作権料を徴収する機関であり、RIAAによって設立された。なので、まったくもって中立の機関ではなく、RIAAの意見そのものであると考えられる。e-Commerce Timesの記事によると、SoundExchangeの専務取締役John Simpsonは「アーティストは、彼らの才能から−金銭的であれ、それ以外であれ−利益を上げているWeb放送局から、アーティスト自身の作品のパフォーマンスに対する適切な補償を得る権利を獲得したということです。この著作権料の支払いがなければ、アーティストたちは音楽に貢献し続けることがほとんど出来なくなるでしょう。」と語っている。
まぁ、毎度毎度のことであきれるが、団体の利益を高めるためにアーティストを盾にするのはいい加減にしてほしいものだ。アーティストに、ではなく、自分たちに、金を集めたいだけだろうに。
さて、今回の件の背景には、2002年の値上げ騒動がある。このときは、著作権団体、ネットラジオ局双方の痛み分けに終わったわけだけれども、結果としては火種はくすぶり続けることになった。そして、昨今のネットラジオの隆盛に伴って、これは金を取らなきゃもったいないってところで、今回の騒動が勃発したのだと思われる。
ネットラジオといって真っ先に思いつくところとしては、Pandoraという人も多いだろう。そのPandoraを筆頭に多くの小規模なネットラジオ局が、音楽産業にもたらしたものはなんだろうか?それは音楽を購入する機会をリスナーに提供したということだと思う。これに特に優れていたのはPandoraだろう。
しかし、今回の値上げはせっかく軌道に乗ってきたネットラジオ市場を冷え込ませる結果に終わるだろう。なんとしても音楽バブルの栄光を取り戻さんと、目先の利益にばかりご熱心になっているようにも思える。おそらく、RIAAの思惑としてはAOLやYahoo!といった大手から、より多くの使用料を徴収したいのだろう。
ただ、単純にそれで済むなら小規模なネットラジオ局は優遇してあげられるんじゃない?という考えもできるが、リスナーが小規模かつ多数のラジオ局に拡散してしまえば、利用料全体の収益が落ちることも考えられる。であれば、優遇の必要な小規模なネットラジオ局には退場していただいて、より多くの利用料を支払ってくれるサービスにリスナーを集めた方が得策だ、と彼らが考えてもおかしくはない。
小規模なネットラジオ局にとっては非常に不利な状況にあるけれども、一方で大手のネットラジオ局にとっては、何とかやっていける程度にはなるかもしれない。というのも、このような新著作権料規定以外に道はないわけではない。RIAAにとっては、小規模のネットラジオ局がつぶれる分にはどうでもいいのだろうが、Yahoo!、AOLといった大手が手を引くとなると、それは話が違う、ということになるだろう。
そのような事態を避けるためにも、RIAAや大手レコード企業は、大手ネットラジオ局と個別にダンピング価格でのライセンス契約を行うだろう。今回の値上げによって見込まれる利益よりは少ないものになるだろうけれど、大手ネットラジオ局が撤退するよりはマシ、といったところだろうか。小規模なところがつぶれて、大手にリスナーが集まることを考えれば、お互いに悪い話ではないかもしれない。その辺がITmediaの記事で言えば、以下の部分に現れているのではないかと。
Yahoo!、AOL、MicrosoftのMSNなど大手オンライン各社を代表する業界団体Digital Media Association(DiMA)の代表、ジョナサン・ポッター氏は、DiMAはまだSoundExchangeと話し合っていないが、近いうちにその機会を設ける予定だと述べた。同氏によると、DiMAとほかのウェブ放送局は、同氏が「多くの立法上のサポート」を期待できる米議会に頼るつもりだという。
ちなみに、この著作権料が適応されるのは、非双方向のデジタルラジオ放送に限られており、ソーシャルな機能が備わっている(つまり、送信にユーザの意思が関わっている)サービスに関しては対象外となっている。たとえば、ユーザがプレイリストを作成して、それを利用するサービスなどは除外されるだろう。もちろん、金を払わなくてもいいというわけではなく、別の基準での支払いになるだけの話だが。ただ、これに対しても近いうちに変更を求めてくるだろうけれどもね*1。この手のサイトとしては、おそらくfinetuneなんかが含まれるのだろうけれど、ここは既にRIAAや音楽レーベルと直接取引をしているみたい。
以前紹介したNew Music Strategiesの記事にもあったけれど、リスナーが音楽を購入するプロセスは、「聴く>好きになる>購入する」という順序以外にはありえない。そのプロセスに、より役立つと思われるネットラジオという存在を排除してしまうことが、本当に懸命なことなのだろうかと疑問に思う。
音楽は、ロングテールセールスが期待できる産業でもある。優れた音楽は、常に過去の作品に密接にリンクしているし、その過去の音楽もまた優れているのである。それがさらに未来に続いていく。しかし、その特性を全く理解していない人達がトップにいるおかげで、音楽の創造サイクルは断ち切られ、過去の作品が次第に衰退し、スマッシュヒットだけが目的の使い捨て音楽が大量生産される。そして、今回の値上げ騒動のように、気軽に聞く機会すら目先の利益につられて奪おうとしている。
音楽を殺しているのは誰か?それは、リスナーとアーティストの真ん中にいる、クリエイティビティのかけらもない人達なのかな、と思ったりもする。ITmediaの記事の最後の部分にそれが現れていると思う(太字は引用者による)。
問題の著作権料は音楽のデジタル放送にのみ適用され、地上波ラジオ局には適用されない。従来のラジオ局での放送はレコード会社にとってレコーディングされた楽曲の販売を促進するものと見なされているからだ。音楽の出版社と作曲者に支払う著作権料は、デジタル放送局と従来のラジオ局で異なっている。
別にラジオ局が力を失っているというつもりもないが、逆を言えば、インターネットが楽曲の販売を促進すると見ていないということになるだろう。なんというか・・・、もうだめだね。こと音楽産業に限って言えば、まったくもって『Win,
Win』の関係を持つことが出来ないという問題を常に抱えている。リスナーに対しても、共に利益を上げるべきパートナーに対しても。そんなわけで、既存の音楽業界はデジタル時代の負組になりつつあるわけです。
ただ、楽観的な私としては、これをチャンスと捉えるべきじゃないかと思うわけですよ。RIAAら大手レーベルの支配下にある楽曲が、人目に触れないように厳重に保管されるようになれば、それ以外の楽曲が世に出てくるチャンスともなる。幸いなことに、Creative
Commonsライセンスの楽曲も、Public Domain下の楽曲も、世の中にはたくさんあるし、そしてそれらを配布したがっている人も多い。これを機に、そのような人達の楽曲をより利用するってのはどうでしょうね。
*1ちょっと面倒な話なのだけれども、ネットラジオの位置づけが非常に特異な点がその原因だったりもする。1995年の 音声録音デジタル演奏権法と、1998年のDMCAによって、ネットラジオは、地上波のアナログラジオ放送とも、他のネット通信とも異なる扱いを受けている。しかし、これへの批判としては、徐々にそれぞれの境界が不明瞭になってきているということがある。
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